真夜中の祈り
眠れない時には、よく考え事をする。
考えることはその時によってバラバラで、
”明日の試合に推し選手は出るかな” ”夜ご飯何にしようかな” という軽いことから、
”今生きてる意味って何だろう” ”私と他人の境界はどこからなのか” という命題的なものまで幅広い。
これらを一晩でいくつも、考えてはやめて、また考え出してと繰り返していくと、大抵いつの間にか眠りにおちているのだ。
ただ、時にはそれでも眠れない時がある。
今日もたまたまそういう日で、わたしはある人のことを思い出していた。
今振り返ればきっと、わたしの目にはその人は一際綺麗に映っていたのだとおもう。
あの頃も明確に好きという感情ではなかったけど、どこか素敵だなと思っていた。
寡黙で少し怖い雰囲気だけれど、とても字が綺麗で真面目な人。そんな印象だった。
もう少し近づきたかったけど、近づくと困らせてしまいそうで、わたしは遠くからそっとその人を見ていた。
そんな関係だったから、今のわたしはその人への連絡手段を一切もっていない。
その人が今どこで何をしているのか。そもそも生きているのかさえも、もう分からない人だった。
「あの人、今何してるんだろう。」
気になりだすと、納得できるまで探し出すのが私の悪い癖で。検索エンジンを開いてその人の名前を打ってみた。
一番最初に出てきたのはとあるホームページで、なにかの紹介ページだった。
ページを開き、ゆっくり読み進めていくとその人はあっさりと見つかった。
あの頃の面影が少し残る、あの頃よりも素敵な笑顔で、その人は写真に収まっている。
スーツを纏ったその姿は、わたしの目にはあの頃と同じように、一際綺麗に見えた。
そうか、生きていたのか。この人はここで頑張っているのか。
よかったと安堵したわたしは、そのページを閉じると、またぼんやりと考えだした。
どうかそのまま、健やかに、穏やかに、健康を損なうことなく、わたしの手に入れられなかったものを持ったまま、幸せになってほしい。
どうか、無事に生きていってほしい。
そう思った後、この気持ちを客観的に見るとまるで神への祈りのようだなと思い、よくわからない笑みが溢れた。
その日は、いつもより少し穏やかに眠れた気がする。